なぜか対人関係がうまくいかない、漠然とした生きづらさを抱えている、という悩みはありませんか。
もしかすると、その苦しみの正体は「性格」の問題ではなく、「愛着障害(アタッチメント障害)」にあるかもしれません。
愛着障害とは、幼少期の養育環境などによって、人との情緒的な絆(愛着)が安定して形成されなかった状態を指します。
※医学的な診断基準(DSM-5等)における「反応性アタッチメント障害」は主に小児期を対象としますが、本記事では大人になってからの対人関係や情緒の不安定さを含めた、より広い意味での「愛着スタイル(愛着の傷)」の問題として解説します。
しかし、これは決して「治らない病気」ではありません。
脳の特性や思考の癖を知り、大人になってからでも適切なアプローチをとることで、愛着スタイルは「安定型」へと修復していくことが可能です。
この記事では、精神科医であり北野台病院理事長の尾内隆志先生監修のもと、医学的根拠に基づいた診断チェックから、具体的な克服ステップまでを網羅的に解説します。
- 【30秒診断】あなたの生きづらさの原因がわかる「愛着スタイル」チェックリスト
- 恋愛・仕事・育児…大人の愛着障害に見られる特徴と、発達障害との違い
- 「安全基地」を作り、不安を解消するための今日からできる3つの具体的アクション
愛着障害(アタッチメント障害)とは?なぜ大人になっても苦しいのか

このセクションでは、そもそも「愛着(アタッチメント)」とは何か、なぜそれが大人になっても対人関係に影響を及ぼし続けるのか、そのメカニズムについて詳しく解説します。
自分が悪いわけではない、ということを医学的な視点から理解していきましょう。
「愛着」の医学的定義と、形成されなかった場合の影響
「愛着(アタッチメント)」とは、もともとイギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱した概念です。
これは、乳幼児期に特定の養育者(主に母親や父親)との間で形成される「情緒的な絆」のことを指します。
赤ちゃんは不安や恐怖を感じたとき、養育者にしがみついたり泣いたりして守ってもらおうとします。
このとき、養育者が適切に応答し、安心感を与えてくれる体験を繰り返すことで、子供の中に「何かあっても守ってもらえる」「自分は愛される価値がある」という感覚が育ちます。
これが「基本的信頼感」と呼ばれるものです。
この信頼感が土台となり、子供は外の世界へと探索に出かけ、他者と良好な関係を築くことができるようになります。
これを「安全基地(セキュア・ベース)」と呼びます。
しかし、虐待やネグレクト(育児放棄)、あるいは親自身の精神的な不安定さ、厳しすぎるしつけ、過干渉などによって、この安全基地が不安定な場合、愛着形成が阻害されてしまいます。
これが「愛着障害」の根幹です。
愛着が安定していないと、大人になってからも「自分は愛されないのではないか」「人はいつか裏切るのではないか」という根源的な不安を抱え続けることになります。
その結果、対人関係において極端に依存的になったり、逆に親密になることを極端に避けたりといったパターンを繰り返してしまうのです。
大人の愛着障害が増えている背景と現代特有の要因
近年、「大人の愛着障害」に注目が集まっています。
医学的に患者数が急増しているという明確な統計データがあるわけではありませんが、これには現代社会特有の背景が関係しており、愛着の課題を感じやすい環境になっていると言えます。
かつては地域社会や大家族の中で、親以外の多くの大人が子供の養育に関わっていました。
しかし、核家族化が進み、地域とのつながりが希薄になった現代では、子育てが母親一人に集中する「ワンオペ育児」が常態化しています。
母親自身が孤独や不安を抱え、余裕がない状態で育児をせざるを得ない状況が増えているのです。
また、共働き家庭の増加に伴う保育環境の問題や、離婚率の上昇による家庭環境の変化も、子供の愛着形成に影響を与える要因となり得ます。
さらに、SNSの普及により、他者と自分を常に比較してしまう環境も、自己肯定感の低下に拍車をかけています。
「いいね」の数で自分の価値を測ってしまうような承認欲求の暴走も、根底には愛着の飢え(アタッチメント・ハンガー)が隠れている場合があると考えられています。
このように、現代は愛着障害を生み出しやすい構造的な問題を抱えており、決して個人の資質だけの問題ではないのです。
【医師解説】愛着障害は「病気」なのか?発達障害との違い
ここで重要なのが、愛着障害と発達障害(ADHDやASDなど)との違いです。
これらは症状(落ち着きのなさ、衝動性、対人関係の苦手さなど)が似ているため、誤診されたり、混同されたりすることがよくあります。
しかし、その原因とアプローチ方法は異なります。
発達障害は、主に先天的な脳機能の障害であり、生まれ持った特性です。
一方、愛着障害は、後天的な養育環境によって形成された「関係性の障害」です。
尾内医師(北野台病院 理事長)の解説
尾内 医師「愛着障害と発達障害は、表面上の行動特徴が非常に似ており、鑑別が難しいケースが多々あります。例えば、授業中に立ち歩いてしまう子供がいるとします。これがADHDによる衝動性の問題なのか、親の関心を引くための愛着の問題による『試し行動』なのかを見極める必要があります。また、重要な点として、発達障害の特性を持つお子さんは育てにくさがあるため、親御さんが疲弊し、結果として愛着形成がうまくいかず、発達障害と愛着障害が『併存』しているケースも少なくありません。どちらか一方と決めつけるのではなく、両方の視点を持って、その人の背景にあるストーリーを丁寧に紐解くことが治療の第一歩です。」
▼愛着障害と発達障害の主な違い
| 特徴 | 愛着障害 | 発達障害 (ADHD/ASD) |
|---|---|---|
| 主な原因 | 後天的な環境要因(養育環境) | 先天的な脳機能障害 |
| 対人関係 | 特定の人に執着するか、極端に避ける | 相手の気持ちを読むのが苦手、空気が読めない |
| 環境変化 | 環境が変わると症状が劇的に改善することがある | 環境が変わっても特性自体は残る |
| 薬物療法 | 根本治療にはならない(対症療法のみ) | ADHD治療薬などが効果を示す場合がある |
| 治療方針 | 心理療法、環境調整、愛着の再形成 | 療育、SST(ソーシャルスキルトレーニング)、環境調整 |
精神医学で見る「愛着障害」の本当の意味
少し専門的なお話になりますが、ネット検索で出てくる「愛着障害」と、病院の診断書に書かれる病名には、少し違いがあることを知っておきましょう。
精神医学の診断基準(DSM-5)では、虐待などによる重度の小児期の障害を「反応性アタッチメント障害」などと呼びます。
一方で、私たちが日常的に悩みとして抱える「大人の愛着障害」は、正式な病名というよりは、「愛着スタイルの偏りによる生きづらさ」と捉えるのが一般的です。
この生きづらさが原因で、うつ状態や不安障害を引き起こしている場合、クリニックではそれらの症状に対して保険適用の治療を行うことができます。
「病名がつかないから受診できない」ということはありませんので、安心してくださいね。
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)と愛着障害の関連性
最近よく耳にする「HSP(繊細さん)」と「愛着障害」は、症状がとてもよく似ています。
「人の顔色が気になる」「傷つきやすい」といった特徴は共通していますが、その成り立ちが少し異なります。
- HSP:生まれつきの「気質」。脳の神経システムが敏感。
- 愛着障害:育った環境による「後天的な影響」。人間関係の傷つき体験が原因。
重要なのは、「HSPの気質を持つ人は、環境の影響を強く受けやすいため、愛着障害になりやすい」ということです。
「どっちなんだろう?」と悩む必要はありません。
両方の要素を持っている方もたくさんいます。
どちらであっても、自分を責めず、「敏感な自分を守る術」を身につけていくことが大切です。
【セルフチェック】あなたはどのタイプ?4つの愛着スタイル診断
自分の生きづらさを解決するためには、まず自分がどのような「愛着スタイル」を持っているかを知ることが重要です。
愛着スタイルは、大きく4つのタイプに分類されます。
以下のチェックリストを使って、自分の傾向を確認してみましょう。
ただし、これは簡易的なものであり、医学的な診断ではないことをご了承ください。
また、一人の人間が複数の要素を持っていたり、相手によってタイプが変わったりすることもあります。


チェックリスト:あなたの思考・行動パターンはどれ?
以下の質問に対し、自分に当てはまるものを選んでください。
- パートナーや親しい友人から連絡がないと、嫌われたのではないかと不安になる。
- 相手の顔色を常にうかがってしまい、自分の意見が言えない。
- 相手のために尽くしすぎてしまい、後で「あんなにしてあげたのに」と不満を感じる。
- 一人でいることが苦手で、常に誰かとつながっていたいと感じる。
- 感情の起伏が激しく、ちょっとしたことで相手を責めてしまうことがある。
- 人から相談されたり、頼られたりすると負担に感じる。
- 親密な関係になることよりも、仕事や趣味に没頭している方が楽だ。
- 自分の悩みや弱みを人に見せることは、負けだと感じる。
- 「冷たい」「何を考えているかわからない」と言われることがある。
- パートナーと深い関係になりそうになると、距離を置きたくなる。
- 「人は信頼できる」「自分は愛される価値がある」と自然に思える。
- 困ったときは素直に人を頼ることができる。
- パートナーが忙しくても、見捨てられたとは感じず待つことができる。
- 自分の感情を適切に表現し、相手の感情も受け入れることができる。
- 人と親しくなりたい気持ちはあるが、近づくと傷つくのが怖くて避けてしまう。
- 相手を信じたい気持ちと、疑う気持ちが常に葛藤している。
- 過去にひどく傷ついた経験があり、それがフラッシュバックすることがある。
- 突然、相手に対して攻撃的になったり、逆にパニックになったりする。
- Aが多い人:不安型(とらわれ型)
- Bが多い人:回避型(愛着軽視型)
- Cが多い人:安定型
- Dが多い人:恐れ・回避型(未解決型)
一目でわかる!あなたの「愛着」はどの位置?
言葉だけではイメージしにくい4つのタイプですが、「不安(見捨てられるのが怖い)」と「回避(人と親しくなるのが億劫)」という2つの軸で整理すると、自分の立ち位置がよく分かります。
以下の図を見て、自分の心の現在地を確認してみましょう。


この図の左下にある「安定型」のエリアへ、少しずつ近づいていくことが治療の目標になります。
①安定型:自立し、他者を信頼できる(目指すべき状態)
人口の約6割がこのタイプと言われています。
安定型の人は、対人関係において安心感をベースに持っています。
自分を肯定し、同時に他者も肯定することができます。
困ったときは適切に援助を求め(依存でき)、一人でいるときも自律して過ごすことができる、バランスの取れた状態です。
愛着障害の治療のゴールは、この「安定型」の要素を少しずつ育てていくことにあります。
②不安型(とらわれ型):見捨てられ不安が強く、過剰に求めてしまう
「不安型」の人は、自分に自信がなく、他者からの評価や愛情を過剰に求めてしまう傾向があります。
「見捨てられ不安」が非常に強く、パートナーからの連絡が少し遅れただけでパニックになったり、「私のこと嫌いになった?」と何度も確認したりしてしまいます。
相手に尽くすことで愛情をつなぎとめようとしますが、それが報われないと感じると、強い怒りや恨みを抱くこともあります。
常に相手の顔色をうかがい、過剰に同調してしまうため、対人関係で非常に疲れやすいのが特徴です。
③回避型(愛着軽視型):親密さを避け、一人でいることを好む
「回避型」の人は、親密な関係そのものをストレスと感じ、距離を置こうとします。
幼少期に、親に求めても拒絶されたり、無関心に対応されたりした経験から、「人に期待しても無駄だ」「自分の身は自分で守るしかない」という諦めにも似た自立心を形成しています。
感情を表に出すことを嫌い、クールで合理的、またはドライな印象を与えます。
仕事などは有能にこなすことが多いですが、共感性に乏しく、パートナーが感情的な悩みを相談しても「で、解決策は?」と突き放してしまうような対応をしがちです。
④恐れ・回避型(未解決型):人を求めたいが、近づくと怖い
「不安型」と「回避型」の両方の特徴を併せ持っているのが、この「恐れ・回避型」です。
ペルソナである由美子さんのように、「人は求めているけれど、信じるのが怖い」という激しい葛藤(アンビバレンス)の中にいます。
過去に虐待や深刻な喪失体験など、トラウマを抱えているケースも多く見られます。
相手が近づいてくると、傷つくのが怖くて逃げ出したくなり、逆に相手が離れていくと、見捨てられる不安から追いかけたくなる。
このアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態が続くため、心身ともに消耗しやすく、最も生きづらさを感じやすいタイプと言えます。
尾内医師(北野台病院 理事長)のアドバイス



「診断結果を見て落ち込む必要はありません。愛着スタイルは固定されたものではなく、流動的なものです。実際、最初は不安定な愛着スタイルを持っていた方でも、良きパートナーや理解者(安全基地)に巡り合うことで、徐々に安定型へと変化していくケースを数多く見てきました。重要なのは、自分の『愛着の癖』を知ることです。『あ、今私は不安型特有の試し行動をしそうになっているな』と客観的に気づくだけでも、行動をコントロールする大きな一歩になります。」
【シーン別】大人の愛着障害に見られる具体的特徴と悩み
ここでは、大人の愛着障害が日常生活のどのような場面で表面化しやすいのか、具体的なシーンを例に挙げて解説します。
「これ、私のことだ」と感じる部分が多いかもしれません。
その癖、昔から?子供の頃と大人の症状チェック
「大人になって急に愛着障害になったの?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、実は子供の頃のサインが、形を変えて大人まで続いているケースがほとんどです。
以下の表で、昔の自分や、もしお子さんがいらっしゃる方はお子さんの様子と照らし合わせてみてください。
| 特徴のタイプ | 子供の頃のサイン(幼児・学童期) | 大人になってからのサイン |
| 人間関係 | 親の後追いが激しい、または全くしない | パートナーへの過剰な連絡、または極端に避ける |
| 感情表現 | 泣き叫ぶ、無表情、目を合わせない | ヒステリックな怒り、または感情を出さず冷淡 |
| ストレス反応 | 爪噛み、指しゃぶり、腹痛・頭痛 | 過食・拒食、アルコール依存、買い物依存 |
| 行動パターン | 先生の気を引こうと悪さをする | 上司の評価に一喜一憂し、過剰に働く |
いかがでしたか?形は違っても、根っこにある「寂しさ」や「不安」は同じであることが分かります。
これに気づくことが、解決への第一歩です。
恋愛・夫婦関係:「試し行動」や「急な冷淡さ」で関係を壊してしまう
愛着障害の影響が最も強く出るのが、恋愛や夫婦関係などの親密なパートナーシップです。
不安型の人は、相手の愛情を確認するために、わざと相手を怒らせるようなことを言ったり、別れを切り出してみたりする「試し行動」を取ることがあります。
「ここまでしても私を受け入れてくれるか?」という無意識のテストなのですが、これを繰り返されるとパートナーは疲弊し、結果として本当に関係が壊れてしまいます。
一方、回避型の人は、関係が深まり結婚などの責任が生じそうになると、急に相手の欠点ばかりが目につくようになり、冷めてしまうことがあります。
これは「脱評価(心理学的には「理想化とこき下ろし」などとも関連)」と呼ばれる防衛機制で、親密になる恐怖から逃れるために、無意識に相手の価値を下げる心理操作を行ってしまうのです。
恐れ・回避型の人は、ハネムーン期のような熱烈な時期があったかと思うと、突然シャッターを下ろしたように拒絶する、という極端な揺れ動きを見せることがあり、パートナーを混乱させがちです。
仕事・職場の人間関係:評価への過剰な依存と、頼ることへの罪悪感
職場では、「評価」や「責任」に対する反応に特徴が出ます。
自分に自信がないため、上司からの評価に過剰に依存し、「期待に応えなければ見捨てられる」という強迫観念で働いてしまうことがあります。
そのため、頼まれた仕事を断れず、キャパシティを超えて抱え込み、最終的に適応障害やうつ状態になってしまうケースが後を絶ちません。
逆に、人に頼ることを「弱さ」や「迷惑」と感じるため、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)ができず、問題を一人で抱え込んで事態を悪化させてしまうこともあります。
また、上司や同僚の何気ない一言を「自分への攻撃」や「否定」と受け取ってしまい(認知の歪み)、職場に居場所がないと感じて転職を繰り返すことも、愛着障害の特徴の一つです。
感情調整の困難さ:些細なことで激昂したり、消えたくなったりする理由
愛着障害の人は、感情のブレーキ機能がうまく働かないことがあります。
これは脳科学的にも説明されており、愛着に問題があると、感情を司る「扁桃体」が過敏になり、それをコントロールする「前頭前野」の働きが弱くなる傾向があることが分かっています。
そのため、些細なことでカッとなって激しく怒ったり、逆にちょっとした失敗で「もう死んでしまいたい」と思うほど深く落ち込んだりします。
この感情の振れ幅の大きさは、本人にとっても非常に辛いものです。
「自分は性格が悪いのではないか」「情緒不安定なダメな人間だ」と自分を責めてしまいがちですが、これは脳の防御反応が過敏になっている状態だと言えます。
私が担当したある女性(30代・事務職)は、職場で「完璧でなければならない」と思い込み、誰よりも早く出社し、残業も断らずに続けていました。
彼女は「もし断ったら、誰からも必要とされなくなるのが怖い」と語っていました。
彼女の場合、幼少期に親から「いい子でないと家に入れない」と言われ続けた経験が、大人になっても「成果を出さない自分には価値がない」という呪縛となって彼女を苦しめていたのです。
カウンセリングを通じて「断っても関係は壊れない」という経験を少しずつ積み重ねることで、彼女は徐々に自分らしい働き方を取り戻していきました。
母親として知っておきたい「子供への影響」と「連鎖」の真実
もしあなたが子育て中の母親で、自分自身の愛着障害に悩んでいるなら、「子供に影響が出るのではないか」「毒親になってしまうのではないか」という不安は、計り知れないほど大きいものでしょう。
ここでは、最も繊細で重要な「愛着の連鎖」について、希望を込めて解説します。
「私も毒親になる?」世代間連鎖(愛着の伝達)は断ち切れる
愛着スタイルは、親から子へと世代を超えて伝達される傾向があります。
これを「世代間連鎖」と呼びます。
親自身が愛着に課題を抱えていると、子供の信号(泣く、笑う、求める)に対して適切に応答することが難しくなり、結果として子供も不安定な愛着スタイルを形成しやすくなるのです。
しかし、ここで強くお伝えしたいのは、**「連鎖は断ち切れる」**ということです。
最も危険なのは、自分が愛着障害であることに「無自覚」な場合です。
無自覚なままでは、自分が親からされた嫌なことを、無意識に子供に繰り返してしまいます。
しかし、あなたが今この記事を読み、「自分には愛着の問題があるかもしれない」と気づいている時点で、あなたは負の連鎖を止めるための第一歩をすでに踏み出しています。
「気づく」ことこそが、回復への最大の鍵なのです。
子供の年齢別サイン:幼児期の「後追い」から中学生の「不登校・非行」まで
子供が出す「愛着不足のサイン」は、年齢によって形を変えて現れます。
- 極端な後追いをする、または全く後追いをしない。
- 目が合わない、表情が乏しい。
- 親が見ていないところで乱暴な行動をする。
- 怪我をしても泣かない、または大げさに泣き叫ぶ。
- 試し行動の激化:わざと親を困らせるような言動を繰り返す。
- 赤ちゃん返り:年齢にそぐわない甘え方をする。
- 不登校・引きこもり:学校という社会的な場への不安、家(安全基地)から離れられない。
- 非行・万引き:寂しさを埋めるための刺激追求、または親の関心を引くためのSOS。
- 過剰適応:学校では「いい子」を演じすぎて家で爆発する、またはその逆。
特に中学生以降の反抗期は、愛着の問題が複雑に絡み合いやすい時期です。
単なる反抗期なのか、愛着の欠如によるSOSなのかを見極めるには、その行動の裏にある「動機」を見ることが大切です。
自立したくて反抗しているのか、自分を見てほしくて暴れているのか、その違いに目を向けてみてください。
母親自身が愛着障害の場合の、子供への接し方のコツ
「子供を可愛いと思えない瞬間がある」「イライラして怒鳴ってしまう」
そんな自分を責めないでください。
愛着に傷を抱えている母親にとって、24時間子供の感情を受け止め続けることは、人の何倍ものエネルギーを要する過酷な作業です。
目指すべきは「完璧な母親」ではありません。
イギリスの精神分析家ウィニコットが提唱した「Good Enough Mother(ほどほどに良い母親)」で十分なのです。
具体的には、以下のことを意識してみてください。
- 60点で合格とする:常に笑顔でいられなくても、ご飯が手抜きでも、子供が死ななければOKくらいの気持ちで。
- 「ごめんね」と言える関係を作る:感情的に怒ってしまっても、後で「さっきは言い過ぎてごめんね、お母さん疲れていたの」と謝れば、修復は可能です。この修復体験こそが、子供に「失敗してもやり直せる」という安心感を教えます。
- 物理的に離れる時間を作る:イライラが爆発しそうなときは、トイレに逃げ込む、数時間預けるなどして、物理的に距離を取ってください。自分を守ることは、子供を守ることにつながります。
尾内医師(北野台病院 理事長)の温かいメッセージ



「お母さんが自分自身をケアすることは、決してわがままではありません。飛行機の酸素マスクと同じです。緊急時には、まず大人がマスクをつけてから、子供につけるよう指示されますよね。お母さんの心が酸欠状態では、子供を助けることはできません。まずはあなた自身がリラックスし、笑顔を取り戻すこと。それが結果として、お子さんの最大の『安全基地』になるのです。」
パートナーが愛着障害の場合の接し方と対応
この記事を読んでいる方の中には、「彼女(彼氏)や妻(夫)が愛着障害かもしれない」という方もいるかもしれません。
愛着障害の方の「試し行動(わざと困らせる)」や「突然の拒絶」は、パートナーにとって大きなストレスになりますよね。
もし相手を支えたいと思うなら、以下の2つを意識してみてください。
相手が感情的になっても、巻き込まれて感情的に言い返さないことが大切です。「今は辛いんだね」と落ち着いて受け止める(あるいは聞き流す)ことで、相手は「感情をぶつけてもこの人は壊れない」と安心します。
無理な要求には「それはできない」とハッキリ伝えても大丈夫です。ただし、「あなたのせいで疲れる」ではなく「私は今疲れているから、明日話そう」と、自分を主語にして伝えてください。
支える側が共倒れしないことが、結果として相手のためになります。
愛着障害の治し方①:回復のカギとなる「安全基地」の作り方
ここからは、具体的な解決策に入ります。
愛着障害の克服において、最も重要かつ不可欠なのが「安全基地(セキュア・ベース)」の確保です。
子供時代に得られなかった安全基地を、大人になった今、自らの手で作り直していくプロセスです。


「安全基地」とは何か?心の拠り所が必要な医学的理由
安全基地とは、一言で言えば「何があっても自分を受け入れてくれる、安心できる避難場所」のことです。
医学的・心理学的には、以下の機能を持つ人や場所を指します。
- 安全な避難場所:外の世界で傷ついたり疲れたりした時に、逃げ込んで安心できる場所。
- 探索の基地:そこがあるからこそ、安心して新しいことに挑戦したり、外の世界へ出ていける拠点。
人は、この安全基地があって初めて、ストレスホルモン(コルチゾール)の値を下げ、安心ホルモン(オキシトシン)を分泌させて、心身のバランスを保つことができます。
愛着障害の人は、この基地がグラグラしているか、存在しない状態です。
そのため、常に戦闘モードで緊張しているか、不安で動けない状態にあります。
回復のためには、この基地を「外付け」でも良いので確保する必要があります。
パートナーや友人を安全基地にするための「アサーティブ」な伝え方
今いるパートナーや友人を、より強固な安全基地にするためには、コミュニケーションを変える必要があります。
愛着障害の人が陥りやすいのが、「察してほしい」という期待と、「どうせ分かってくれない」という諦めです。
これを打破するために、「アサーティブ(自他尊重)」な自己表現を練習しましょう。
具体的には、「私は〜」を主語にするアイ・メッセージ(I message)を使います。
- NG例(責める言い方):「なんで連絡してくれないの? 私のことなんてどうでもいいんでしょ!」
- OK例(アサーティブな言い方):「私は、連絡がないとすごく不安になってしまう癖があるの。だから、遅くなるときはスタンプ一つでも送ってくれると、私はすごく安心できるんだけど、お願いできるかな?」
このように、「あなたの行動を責めているわけではなく、私の不安の性質の問題なのだ」と伝え、具体的な対処法をお願いすることで、相手も協力しやすくなります。
人以外でも大丈夫?推し活・ペット・場所を安全基地にする方法
「頼れる人がいない」「人が怖い」という方も安心してください。
安全基地は必ずしも「人間」である必要はありません。
脳にとっては、「安心感」が得られれば対象は何でも良いのです。
- ペット:犬や猫との触れ合いは、確実にオキシトシンを分泌させます。裏切らない絶対的な味方となり得ます。
- 推し活:アイドルやキャラクターを応援することで得られる幸福感やつながりの感覚も、心の支えになります(※ただし、金銭的な破綻には注意が必要です)。
- 場所:お気に入りのカフェ、図書館、静かな公園、自分の部屋の布団の中。そこに行けば深呼吸できる、という場所を確保するだけでも、立派な安全基地です。
- ぬいぐるみや毛布:子供が持つライナスの毛布(安心毛布)のように、触れると安心するアイテムを持つことも有効です。
専門家(カウンセラー・医師)を安全基地として利用するメリット
身近な人に頼るのが難しい、あるいは関係がこじれてしまっている場合は、プロを「一時的な安全基地」として利用することを強くお勧めします。
カウンセラーや精神科医は、守秘義務を持ち、感情的に巻き込まれずに話を聞くトレーニングを受けています。
彼らとの間で「否定されずに話を聞いてもらう」「約束(予約時間)を守ってもらう」という体験を積み重ねることは、傷ついた愛着を修復する「再養育(リペア)」のプロセスになります。
尾内医師(北野台病院 理事長)の解説



「私たち医療従事者は、患者さんにとっての『安全基地』でありたいと考えています。家族や友人には話しにくいことでも、診察室という守られた空間であれば話せることもあるでしょう。ずっと通い続ける必要はありません。骨折した時に松葉杖を使うように、心が回復して自立できるようになるまでの間、私たちを頼ってくだされば良いのです。薬物療法だけでなく、ただ『安心できる場所』を提供することも、精神科医療の重要な役割の一つです。」
愛着障害の治し方②:今日から自分でできるスモールステップ


安全基地の確保と並行して、自分自身で心のケアを行う「セルフコンパッション(自分への慈しみ)」の習慣を取り入れましょう。
特別な道具はいりません。今日からできる小さなステップを紹介します。
【認知の修正】自己否定の声を「客観的事実」に書き換える日記法
愛着障害の人は、物事をネガティブに捉える「認知の歪み」を持っています。
これを修正するために、簡単な日記を書いてみましょう。
「事実」と「感情」を分けて書くのがポイントです。
- 出来事(事実):上司に「この書類、ここ間違ってるよ」と言われた。
- 自動思考(とっさに思ったこと):「また怒られた。私はダメな人間だ。きっと嫌われたに違いない」
- 反論(客観的な視点):「でも、怒鳴られたわけじゃない。普通のトーンだった。間違いを指摘されただけで、人格否定はされていない。他の同僚も同じように指摘されていた」
- 結果(今の気持ち):「少し凹むけど、次は気をつけよう。嫌われたわけではないかもしれない」
このように書き出すことで、脳内で暴走する「妄想」と、現実の「事実」を切り離す訓練になります。
これを続けると、徐々に「自動思考」の癖が修正されていきます。
【感情のケア】マインドフルネスと「インナーチャイルド」への語りかけ
不安や恐怖に襲われたときは、「今、ここ」に意識を向けるマインドフルネスが有効です。
呼吸に意識を集中し、「今、私は不安を感じているな」と、他人事のように自分の感情を実況中継してみてください。
また、過去の傷ついた自分(インナーチャイルド)をイメージの中で抱きしめるワークも効果的です。
夜寝る前などに、幼い頃の自分を想像し、「辛かったね」「よく頑張ったね」「もう大丈夫だよ、大人の私が守るからね」と優しく声をかけてあげてください。
これはバカバカしく思えるかもしれませんが、脳にとっては実際に他者から慰められるのと近い癒やし効果があることが分かっています。
【生活習慣】オキシトシン(愛情ホルモン)を増やす習慣
心の安定に不可欠な脳内物質「オキシトシン」は、日々の行動で増やすことができます。
- 温かい飲み物を飲む:物理的な温かさは、心理的な温かさと脳内でリンクしています。
- マッサージやハグ:パートナーや子供、ペットとのスキンシップ。一人の場合は、マッサージに行ったり、自分で自分をハグしたりするだけでも効果があります。
- 「親切」をする:誰かに「ありがとう」と言われること、誰かのために小さな親切をすることも、オキシトシンを分泌させます。
▼今日から始める「自分を大切にする」行動リスト
| カテゴリ | 具体的なアクション | 難易度 |
|---|---|---|
| 身体ケア | 好きな香りの入浴剤を入れて、湯船に15分浸かる | 低い |
| 感情表現 | 辛い時に「辛い」と紙に書きなぐってから破り捨てる | 低い |
| 休息 | スマホの電源を切り、1時間だけ情報を遮断する(デジタルデトックス) | 中間 |
| 対人 | 「NO」と言う練習をする(小さな頼み事を断ってみる) | 中間 |
| 安全基地 | 信頼できる人に「ただ話を聞いてほしい」とお願いする | 高い |
病院に行ったら何をするの?治療の流れとお金の話
「精神科に行くのはハードルが高い」「何をされるか分からなくて怖い」と感じる方は多いものです。
当院(北野台病院)をはじめとする一般的なクリニックでの、初診から治療までの流れを簡単にご紹介します。
1. 受診の流れ:無理に話さなくて大丈夫
- ご予約・問診票の記入 まずはWebや電話で予約を取ります。問診票には「人間関係で悩んでいる」「昔から生きづらい」など、ありのままを書いていただいて大丈夫です。
- 医師による診察(30分〜60分程度) 現在の困りごとや生い立ちについて、医師がお話を伺います。すべてを話す必要はありません。話せる範囲でOKです。
- 治療方針の決定
- お薬の処方:眠れない、不安が強いなどの症状がある場合、症状を和らげるお薬を使います。
- 精神療法:カウンセリングなどを通じて、少しずつ思考の癖をほぐしていきます。
2. 費用の目安:保険は使えるの?
結論からお伝えすると、愛着障害に伴ううつ症状や不眠、パニックなどの治療には健康保険が適用されます。
- 初診時:2,500円 〜 4,000円程度
- 再診時:1,500円前後 (※3割負担の場合。検査内容や処方箋の有無により変動します)
まずは「保険の範囲内で相談したい」と伝えていただければ、医師がその範囲でできる最善のケアを提案します。
専門医が回答!大人の愛着障害に関するQ&A
最後に、診察室でよく聞かれる質問について、尾内先生に回答していただきました。
病院に行くべき基準は?何科を受診すればいいですか?
尾内医師の回答



「『眠れない』『食欲がない』『会社に行こうとすると涙が出る』など、身体的な症状が出ている場合は、早めに受診してください。また、日常生活に支障が出ている、死にたい気持ちが消えないといった場合も同様です。受診するのは『精神科』または『心療内科』です。初診時には、『自分の性格の問題かもしれないのですが…』と前置きしていただいて構いません。生育歴や現在の対人関係の悩みを、メモにまとめて持参していただくと、スムーズに診察が進みます。」
親を許せません。それでも治りますか?
尾内医師の回答



「治ります。そして、無理に親を許す必要はありません。愛着障害の回復において『親との和解』は必須条件ではありません。むしろ、毒親的な親御さんである場合、物理的・心理的に距離を取ること(絶縁や疎遠にすること)が、回復への近道であることも多いです。大切なのは、過去の親との関係に縛られず、今あなたの周りにいる人たちと、新しい安全な関係を築いていくことです。『許せない自分』を許してあげてください。」
薬で愛着障害は治りますか?
尾内医師の回答



「残念ながら、『愛着障害そのもの』を治す特効薬はありません。愛着障害は脳の器質的な病気というよりは、認知や関係性のパターンだからです。しかし、愛着障害に伴う『うつ症状』『不眠』『強い不安』『パニック』などに対しては、抗うつ薬や抗不安薬などが非常に有効です。薬で辛い症状を緩和し、心のエネルギーを回復させた上で、カウンセリングや思考の修正に取り組む、というのが一般的な治療のステップになります。」
愛着障害を克服した患者様の事例(30代女性)
ここでは、実際に治療を通じて愛着スタイルが安定していったAさん(30代・女性)のエピソードを簡単にご紹介します。
- Aさんの悩み(不安型) 彼氏からのLINEの返信が遅いだけで「浮気しているんじゃ?」「嫌われた?」とパニックになり、相手を責める長文メッセージを送っては自己嫌悪に陥ることを繰り返していました。
- 回復へのプロセス 医師との対話で「見捨てられる不安」の正体が、幼少期の寂しさにあることに気づきました。そして、「不安になったらスマホを置いて深呼吸する」「彼を責める前に、不安な気持ちだけを紙に書き出す」という小さな練習を続けました。
- Aさんの現在 「返信がなくても、彼は忙しいだけ」と思えるようになり、自分の趣味の時間を楽しめるようになりました。「彼がいなくても私は大丈夫」という感覚を持てたことで、逆に関係が良好になったそうです。
このように、時間はかかりますが、思考の癖は必ず修正していくことができます。
まとめ:過去は変えられないが、愛着スタイルは今から「獲得」できる
ここまで、大人の愛着障害の特徴や治し方について解説してきました。
最後に、重要なポイントをおさらいします。
- [ ] 愛着障害は性格ではなく、後天的な「関係性のOS」の不具合であると知る
- [ ] 自分が「不安型」「回避型」「恐れ・回避型」のどの傾向が強いか把握する
- [ ] 全てを一人で解決しようとせず、「安全基地(頼れる人・場所)」を見つける
- [ ] 「察して」をやめて、アサーティブに言葉で不安を伝える練習をする
- [ ] 完璧な自分・親を目指さず、60点の自分を許し、慈しむ
愛着障害を抱えて生きることは、穴の空いた船で海を渡るようなもので、常に不安と隣り合わせだったことでしょう。
しかし、その穴は修復可能です。
そして、人の痛みを深く知るあなただからこそ、回復した後には、誰かの痛みに寄り添える、優しく強い「安全基地」になれる可能性を秘めています。
まずは今日、自分自身に対して「今までよく生き延びてきたね」と、労いの言葉をかけてあげてください。
そこから、あなたの新しい人生が始まります。
もし、一人で抱えきれない苦しみを感じているなら、私たち専門家を頼ってください。
病院の扉は、いつでもあなたのために開かれています。
尾内医師(北野台病院 理事長)より



「愛着の傷は、人との関係の中でできた傷です。だからこそ、人との関係の中でしか癒やされない部分があります。それは怖いことかもしれませんが、希望でもあります。諦めずに、あなたにとっての『安全な場所』を探し続けてください。私たちはそのお手伝いをします。」
もっと深く知りたいあなたへ。医師おすすめの3冊
自分のペースで愛着障害について学び、心を癒やしたい方のために、専門医も信頼を置く良書を3冊ピックアップしました。
- 『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司 著) 愛着障害の入門書として最も有名な一冊。自分がどのタイプか、なぜそうなったのかが平易な言葉で深く解説されています。
- 『愛着障害の克服 「愛着の傷」を癒す実践ワーク』(岡田尊司 著) 知識を得るだけでなく、実際にどうすれば治るのか?という実践的なワークが中心の本です。
- 『マンガでわかる 愛着障害〜自分を愛せない子供たち〜』 文章を読むのが辛いときは、マンガで読むのもおすすめです。視覚的に理解できるので、パートナーに読んでもらうのにも適しています。

